シャーン!(カーテンを開ける音)
「A:◯◯ちゃん、ご予約のお客さんです!」
「B:はーい」
赤、ピンクのようなライトが照らされた薄暗い個室に何名もの大人の女性が何かを待っていた。その中に小学生にも満たない年齢だった俺はいた。カーテンの中で、20代〜30代のたくさんのお姉さんや少し強面のお兄さん達にチヤホヤされていた。ここはどこ?そう、それは「親」の仕事先の風俗だった。これが今脳内にある一番古い記憶だ。
シャーン!
「A:◯◯ちゃん、◯◯時からご予約のお客さんです!」
「C:はーい」
シャーン!
「A:◯◯ちゃん、初回のお客さんです!」
「D:はい、はい」
次々と周りのお姉さんがカーテンの向こう側に行き、戻ってこなくなった。
みんなが帰ってくるまでこじんまりとした薄暗い部屋で一人ぼっち。
そこへ強面のお兄さんがみんなの待っていた部屋に入ってきて、俺に一言。
「お兄さん:ママとお姉さん達は今仕事で忙しいから、終わるまでちょっと外にお散歩行こうか」
東京の夕方〜夜の繁華街へお兄さんと散歩することに。毎回散歩をするたびに数百円のドラゴンボールカードやガチャポンを買ってくれた。たまにお兄さんに連れられて、銭湯へ行くこともあった。お兄さんの背中には大きな龍の刺青が入れられていて、銭湯仲間の他のお兄さんの背中にも色々な刺青が入ってた。
「俺:なんで龍が背中にいるの?」
「お兄さん:龍が背中にいるのは強さの証だからここにいるんだ!笑」
子供の質問に率直に答えてくれたお兄さんはとてもいい人だった。このお兄さんとの散歩は俺の唯一の楽しみだった。今思えばお父さんとして見ていたのかもしれない。
シングルマザーだった「親」は仕事が終わると俺と一緒に帰宅し、すぐに就寝。お腹が減っていても、日々のご飯はカップヌードルなどのジャンクフード。保育園に通う年齢の俺としてはカップヌードルで全然足りたが、もっと美味しいものが食べたかった。たまに強面のお兄さんやお姉さん達と一緒に、夜の繁華街でおいしいご飯をご馳走をしてもらうこともあった。でもたまに作ってくれた親の肉じゃがやカレーはダントツで美味かったことを覚えてる。
月日が経ち、今までいつも連れて行ってくれたお店に行かなくなり、お姉さんやお兄さんと会うことがなくなってしまった。何よりもドラゴンボールのカードを買ってもらえなくなったことと、銭湯に行けなくなったことがショックだった。親になんでか聞いても返答は全くなかった。その後、親は俺のことを他の場所に連れ回すことになった。その先が新しくできた男の家だった。
最初の頃、タクシー運転手をしていた彼はとても優しく、いつも笑顔で小さな俺とも一緒に遊んでくれた。もちろん、ドラゴンボールのカードを買ってくれたり、当時は高価だったスーファミやPlay Stationも持っていて、とにかく一緒に遊んでくれて楽しかった。ただ、この男には裏の顔もあった。ギャンブル好き、短気で暴力的な性格だった。
親がこの男と一緒になり始めてからパチンコに行くようになり、小さかった俺も毎回連れて行かれていた。もちろん、パチンコはほぼ負けており、負けた帰りはいつも機嫌が悪く、物に当たっていた。恐怖を感じながらも親に連れられ半同棲で彼の家で生活することが増えた。ゲームでは大人気なく、本気でプレイし、彼に一度も勝ったことはない。もちろん、小さい俺もゲームに負けると怒ることもあったが、怒ると彼の怒号と鉄拳が毎回飛んできて、何度殴られたか覚えていない。
彼は女癖も悪く、常に親とも喧嘩をしていた。喧嘩というよりは殴り合いだ。
「彼:クソ女、ぶっ殺すぞ!」
「親:ごめん、だからやめて!」
親に対して放ったこの言葉は小さな俺には衝撃的だった。子供の俺の前で、親の首を締めたり、髪を掴んだり、顔面を殴ったり。とにかく壮絶だった。小さいながらに大人っていうのはこれが当たり前なんだと思い、一切泣くことはなかった。ただ、ボーッと彼らの喧嘩を見てた俺のことが気に食わなかったのか、彼は俺にも何度も手を上げてきた。痛かったことは覚えてるけど、それ以上のことはもう覚えていない。一度だけ親が彼からの虐待を守ってくれたことがある。親は包丁を持ち出し、彼にこう言った。
「親:これ以上子供に手を出したら、あんたを殺してやる。」
守ってくれたのかもしれないけど、親とのいい思い出なんて一切ないし、俺の心には全く響かなかった。だから俺は殴られてたけど、楽しい思い出があった親の彼氏を選んで、彼と包丁の目の前に立った。親が包丁を投げ捨てた後、彼の親に対する暴行は何時間も続いた。
周りにたくさんのお姉さんがいて、みんな優しかったけどカーテンの向こう側に行ってからは誰も帰ってこない。強面のお兄さんだけが俺の面倒を見てくれたあの頃。でも彼らは俺の親ではなかった。パチンコ、ゲーム、虐待を教えてくれた親の彼氏。でも彼も違う。「母親」はいたが、外に連れ回すだけで何もしない。誰が本当の親なのか混乱していたあの頃、小さいながらも「親の定義」が分からなかった。
コメント